初めての電話

「まだ仕事してるんですか?」

 

『まぁね。誰かさんが全然連絡くれなくて、仕事に集中出来なかったから』

 

「………」

 

 

 

ちょっとした怒りと申し訳なさが混じって、何て言えばいいか分からなくて、沈黙が出来てしまった。

 

口を開けば毒を言ってしまいそうだったから、瀬野さんが何か言うのを待っていたら、クスクス、と小さい笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

「……なんですか」

 

『可愛いなあと思って』

 

「え、趣味おかしくないですか?」

 

『そう?普通だけどね』

 

 

 

沈黙が可愛いってどんな思考してるの?

 

理解不能だったけど、これは終わらない言い合いになりそうだったからそれには答えずにおにぎりを口に入れた。

 

 

 

『何か食べてる?』

 

「あ、はい。おにぎりを」

 

『おにぎり?それが夕飯?』

 

「そうです」

 

『随分質素だね』

 

 

 

何でこう、いちいちムカツクことしか言わないんだろう。この電話私に何か得あったのかな。

 

そうですね、と皮肉混じりに言ってやれば瀬野さんは笑いながら怒らないでよ、と言った。

 

絶対わざと怒らせてるでしょ…!
おにぎりだってこんなにも美味しいんだから。別に質素とかじゃないし。これが私はいいんだし。

 

 

 

『ねぇ、毎晩おにぎりなの?』

 

「…自炊する時間が無いんです」

 

『もっと美味しい、んー、イタリアンとか食べたいと思わない?』

 

「イタリアン?」

 

『うん。好きなの?』

 

「好きっていうか…、食べれるなら毎日でも食べてますよ」

 

 

 

働き始めたばかりの私には、そんなオシャレなものを食べるほど、お金に余裕があるわけではない。

 

瀬野さんのマンションを見た限り、お金に余裕があるのはまる分かりだ。これ自慢なのかな。

 

 

 

『毎日は無理かもしれないけど、時間が合う時は食べに行こうよ』

 

「…え?」

 

 

 

おにぎりを食べる手が自然と止まった。言われた言葉を理解するのには、少しだけ時間がかかった。

 

『勿論、お金は出すからさ』

 

 

 

ね?、と念を押されてもその返事はしにくいものだった。

 

 

 

「…、考えておきます」

 

『いい返事聞けるの待ってるよ』

 

 

 

すぐ返ってきたあたり、そう答えるのを分かってたみたいだった。
ついこの間初めて話したばかりなのに、なんだか色々見透かされてる気がする。

 

 

 

『じゃあ、俺は仕事に戻るね』

 

「あ、はい。すみません。頑張って下さい」

 

 

 

そういえば仕事中だったな、すぐ切れば良かったかも。

 

ちょっと後悔したけれど、ありがと、と少し嬉しそうな声が聞こえたから、その後悔は無かった事にする。

 

 

 

『おやすみ』

 

「おやすみなさい」

 

 

 

初めての電話は、13分24秒という私にしては長めの電話だった。