出待ち

 

「…………それは本当に妄想じゃないの?」

 

 

お昼の時間。昨日あったことをほそぼそと佳奈に話すと、ただ呆然とそう言った。

 

 

「…なんか、そうかもって思ってきた」

 

「だってあの、瀬野遥が美結?」

 

「ちょっと、それは失礼でしょ」

 

 

でも、確かに佳奈の言う事は私も思う。この会社にはもっと瀬野さんにふさわしい人がたくさんいる。
なのに、何故仕事も遅くて見た目の普通の私?

 

 

「てか、なんで断ったわけ?」

 

「へ?」

 

「顔よし。金よし。性格も、まあ悪くない。何が嫌だったわけ?」

 

「何が…って、好きじゃないし」

 

 

そう言うと、はあ?と呆れたように言った佳奈は頬杖をついて私を睨んだ。こっわい。

 

 

「あのねえ。アンタみたいに仕事ばっかで恋愛もろくに出来ない女が好きな人としか結婚したくなーい、とか言ってたら一生結婚なんて出来ないわよ」

 

「で、でも…」

 

「でもじゃない!結婚出来なくてもいいの?」

 

 

佳奈の迫力に圧倒されて何も言えなくなった。恋愛なんてもうずっとしてないから、好きって気持ちも実はよく覚えてない。

 

 

「ま、好きにさせてくれるって言うんだからいいじゃない」

 

 

佳奈がコーヒーを飲み干すと、丁度お昼の時間が終わり、私たちは席を立った。
その日の夜。
私は当たり前のように残業していた。

 

 

「(帰りたい)」

 

 

昨日、残業したせいでこんなに惑わられることが起きたのだ。出来るならば、なるべく早く帰りたい。そして早く寝たい。

 

あと一つ、あと一つの資料を作れば終わる!それも、誤字脱字の確認だ。

 

現在9時前。家に10時になる前に帰れる…!

 

それにもう一つ加えれば、もしもまた瀬野さんが私のことを待っていたとしても、何故か毎日9時半まで残業しているのを知っているから、9時に会社を出れば会わずに済むだろう。

 

私なんかにかまうのをやめて、もっと相応しい女の人に時間を使って欲しい。

 

 

「終わった…」

 

 

さっさとUSBをパソコンから抜いて、バッグを持って立ち上がった。

 

エレベーターがボタンを押した瞬間降りてくるあたり、瀬野さんはエレベーターには乗ってないようだ。

 

開いたエレベーターが予想通り空っぽで、安心しつつ乗り込み1のボタンを押した。

 

エレベーターから降り、誰もいないエントランスを進む。今日の夕飯は久しぶりに手作りにしよう。そうしよう。

 

それから、すぐにお風呂に入って寝よう。昨日一睡もしてないから、体が重くて仕方ない。

 

なんてフラフラの体で会社を出れば、

 

 

 

 

「あ、いつもより早いね」

 

 

ビルに背を預けていた瀬野さんが笑顔で私に向き直った。

 

さよなら、私の安眠。