火照り

抱き締められながら思う。
もしかしたらこれは夢?何かの罰ゲーム?冗談?もし、頷いたら私はどうなるのかな。

 

馬鹿にされて、笑われたりするのかな…。

 

でも、もし本気だったら…。

 

 

 

なんて、ボーッ、と考えてゆっくりと目を開けると、そこには瀬野さんの綺麗な顔が至近距離に広がっていた。

 

 

「っ!!???」

 

「あ」

 

 

なななな、なんだ今の近さは!!??

 

思いっきり瀬野さんを突き飛ばして、いつでも逃げれる距離をとった。瀬野さんは少し残念そうな顔をしていた。なんでだ。

 

 

「な、なんですか…!!」

 

「何って…、キスしようと思って」

 

「キス!!!???」

 

 

うん、とまた小さく笑って呟いた瀬野さん。

 

 

「何も言わないから受け入れてくれたのかと思ったけど。違った?」

 

「ちちち、違います…!」

 

「え、じゃあ結婚してくれないの?」

 

 

シュン、と子犬のような目で私を見つめる瀬野さん。待て待て待て。この顔に流されてはいけない。この後どんな仕打ちがあるか分からない。大人になれ。大人になれ佐藤美結!

 

 

「お、お断りします!!」

 

「なんで」

 

 

間髪入れずに言われた。
しかもさっきより不機嫌になってきてる気がする。
「せ、瀬野さんのこと、何も知らないし!いきなり結婚とか…、そっちこそ何考えてるんですか!」

 

「美結さんしかもう好きにならないし。美結さんと一生一緒にいるんだから、付き合うなんて過程いらないと俺は思うけど」

 

 

顔が、どんどん火照っていくのが分かった。
この男、普通の顔して凄いこと言う…!こっちが照れる…!しかもなんで私も瀬野さんのこと好きみたいなことになってるの!?

 

 

「申し訳ありませんが、結婚はしません!私、瀬野さんのこと好きじゃないし…!」

 

「じゃあ好きにさせるから。結婚しよう」

 

 

言いながら私に詰め寄ってくる瀬野さん。言ってることはオカシイのに、なんでこんなに自信満々なのだろう、彼は。

 

 

「好きになんて、なりません…」

 

「そんなの分からないでしょ」

 

「っ、!」

 

 

いつの間にか私との距離を縮めた瀬野さんは、私の頬に触れた。驚いて顔を上げると私の唇を見つめていた。

 

ここでキスなんてされたら、確実に流される!

 

 

「しっ、失礼します!」

 

 

瀬野さんを押しのけて、会社を飛び出した。瀬野さんは何も言わず、追いかけても来なかった。

 

外の空気が火照った頬に気持ちよかった。

 

 

「はぁー……」

 

 

次の日の出勤は、今までで一番体が重かった。

 

もしかしたら、昨日の場面を誰かに見られていて噂が広まって女性の方々にいじめにあうかもしれない!とか、色々考えると止まらなくて、結局一睡も出来なかった。

 

全てはあの、強引な瀬野さんのせいだ。
噂と全然違う。確かに顔がいいから、あんなに自信満々になるものなのか。

 

 

「ちょっと美結ー。何そのブサイクな顔!」

 

 

横から私のデスクにコーヒーを置いてくれたのは、同僚の林佳奈。セミロングの黒髪がさらり、と揺れた。

 

 

「ちょっと寝れなくて…」

 

「珍しい。毎日寝ることしか考えてないのに」

 

「まあそうなんだけど」

 

 

はぁ、とまた小さくため息をついてイスに座り直すと、佳奈がふーん、とコーヒーを飲みながら私の肩を叩いた。

 

 

「昼に話聞いてあげる」

 

 

それだけ言うと、自分のデスクに向かっていった。