彼氏いない歴4年の私

それは本当に突然のことだった。
「(帰りたい…)」

 

 

時刻は9時を回ったところ。会社から家までは電車と徒歩で30分はかかる。この仕事のペースだと終わるのは9時半。家に帰るのは10時になる。

 

面倒だ、そう思って小さくため息をついて目の前にたまる仕事に取り掛かった。

 

 

佐藤美結。4年前に短大を卒業してから、カラーコーディネーターとして、ある会社に所属していた。

 

今年で23歳。
最後に彼氏がいたのは、大学1年生の夏のことである。

 

大学生の頃は、まだ恋愛だの結婚だのにキラキラした夢を持っていた。たった4年前のことなのに、随分前のように感じるその気持ち。

 

今ではもう、恋愛や結婚というものより、睡眠と休息を求めている。

 

周りの同僚は結婚に向かって合コンを何回も行っている。まあそれは、仕事の遅い私には遠い話だ。
仕事が終わったのは予定通り9時半で、自分の仕事のペースが上がってないことに呆れを感じながら席を立った。

 

 

フロアの電気を全部消して、エレベーターに向かう。

 

誰もいないようで、すぐにエレベーターは到着した。

 

 

「(―――あれ、)」

 

 

誰もいない、と思っていたら一人の男が乗っていた。私は動揺を隠しながらエレベーターに乗った。

 

 

この人はよく知っている。

 

瀬野 遥さん。まだ26歳にして、既に何個の企画も通っている凄腕のデキる男。そのうえ、ルックスが女子ウケするものであり、優しい性格からも人気はかなり高い。

 

それに加えて、お父さんはこの会社の社長。おぼっちゃま、というわけである。

 

 

そんな人と、エレベーターで二人きり。
もちろんなんの接点もないから何も話さないけれど、残業もたまには良い事が起きるんだな、と自分を励ます。

 

 

その日のエレベーターは、一階に着くまで一番長く感じた。
エレベーターを降りて、出口付近にある自動販売機でコーヒーを買った。
このままいくと、電車で寝てしまいそうだったからだ。

 

さあ、いつものように同じ電車に乗って、さっさと帰って寝てしまおう。そう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐藤 美結さん、だよね?」

 

 

 

名前を、呼ばれるまでは。